18話「流行りのベストセラーにはない“本質”」

18話「流行りのベストセラーにはない“本質”」

< 17話「欲しいのは慰めじゃなくて」

「人は死んだらどこに行くのか……」

この問いの答えがわからず、アキラメかけていた時――

もう1つだけ、残されていた場所を思い出した……!

それが、本屋だった!

え?

まさかの!?

知の祠(ほこら)に籠もって

一縷の希望をむねに、僕は、本屋に向かった!

僕が、最初に手にとったのは……

まさか、アイドル写真集!?

いや〜!どんな写真家さんが撮るかで、写りが全然違くて!

しかも、最近は修正しすぎちゃうと、すぐバレちゃうので、編集者のウデが試されるんですよね

なわけあるか!

うん、残念ながらアイドル写真集ではないね(笑)

ですよね〜

僕が最初に読んだのは、本屋で1番推してる本

ベストセラーっすか!

そう!100万本以上売れてるようなミリオンセラーだ

俺が「起業家になりたい」って思ったきっかけも、そうなんすよ!

『迷ったら起業しなさい』って本なんですけど……

あぁ!アレはいい本だよねぇ

まぁ、知ってるもなにも……書いた人は知り合いだからね

えっ!?マジすか!?

え、知り合い?鈴木さんと?

そうだねぇ。かれこれ長い付き合いだね

ま、まさかの……!?なんか感動してきた……!

その本、俺の人生を変えたんすよ!

そうか、山下くんにとっては特別な思い入れがあるんだね……

ですです!

当時、僕もいろいろ読んだけど、とても勉強になる本ばかりだったなぁ

成功するための方法、ストレスフリーに生きる方法、悠々自適に暮らす方法……

人生を変えるのが、ベストセラーだよね

そう思って、過去10年以上はさかのぼって、100冊以上は読んだ

スゴッ!

だけど……

え?

流行りの本では、答えてくれなかった

「死んだらどこに行くのか」には……

どう生きればいいか」は教えてくれた。けど、死の問題は教えてくれなかった

う……

言われてみれば……そんな本見たことないかも……

そうなんだ。近しいことを時々語っているけれども、前の人達のような慰めの言葉ばかり

でも、アキラメきれなかった。だって、自分のように感じてた人が、過去にもいたはずだからね

死んだらどうなるんだろう……。どうして、人生がむなしいんだろう……

共感してくれる人はいないだろうか?

そして思い出した!

そんな悩みを抱えた人――そう。明治時代の、名だたる文豪たちだった

そうですよね!!!

うわ、うるさ!

芥川龍之介、太宰治、夏目漱石……。今でも、多くの人に読まれている本を著した

ええ〜?でも小説って、しょせん娯楽じゃないっすか?

山下!小説は、単なる娯楽じゃあないんだよ

あ、望月の文学スイッチ入っちゃったかもしれない……

当時も、山下みたいなイメージを持つ人が多かった

なにせ「小」説だからね。取るに足りにないもの、っていう意味で理解されたんだ

でも実際、小説は、人々の共感を呼んだ

人生の本質、先の見えない不安……。感銘を受けた青少年も多かった

小説は、人々の思想を変えるパワーを持つんだ!!

わかった、わかった!

相変わらず、小説のことになるとアツいなぁ

望月くんは、どの作家が好きなの?

そうですね……選ぶとなると難しいんですが……夏目漱石ですかね

お!いいねぇ

『草枕』が好きでした

国語の授業で『こころ』読んだくらいかなぁ……

全っ然わからん!

たとえば、『草枕』の冒頭は印象的だね

賢く振る舞いすぎると、嫌われる

情が深いと、周りに流される

自分の意見を押し通すと、衝突する

うわわ、その通りすぎる……

この世の中の「 生きづらさ 」を描いているよね

太宰治の『人間失格』も、そう

太宰は、人生を阿鼻叫喚とたとえてる

彼にとって人生は、相当な苦しみだったに違いない……

しかし、その中で、これだけは変わらないと思えたもの――

それは、「一切は過ぎていくこと」だけだった……つまり、「無常」だけだった……と語ってるね

むなしすぎる……

心に沁みますね……

僕が、人生で感じてきたむなしさ

それが言い当てられて、オドロキだった

僕は小説を、かたっぱしから買った

そして、本屋の隣のカフェで、無我夢中で読んだ。外が暗くなるのにも、気づかないくらい……

あらためて、すごい本なんだなと感じたよ

そうですよね!!

ただ……

えっ?

共感はできたけど、彼らが答えを見つけられたのだろうか……

神経衰弱・自殺・心中……悲惨な末路をたどってる文豪は多い

ひえぇ……

これは、日本の文豪だけじゃない

ロシアの小説家・トルストイを筆頭に、世界の文豪たちも似たような最期を遂げてるんだ

それは、ひ、否定できません……

……でもね。あらためて読むと「ひっかかるもの」はあったんだ

ひっかかるもの?

みんな、絶賛していたものがあった

それが古典

え!?

古典!?

いくつもの本を経て…たどり着いた先

古典って、流行りの本とは違って、ずっと読まれ続けてるじゃない?

しかも、教材として使われて、あらゆる世代の人が知ってる

ま、まあ……そうっすねぇ……

でしょ。僕は、なにか手がかりを感じて、世界中の古典――

古代ギリシャから近代ヨーロッパまでの、西洋の古典(西洋哲学)を見ていった!

そこには、快楽主義と禁欲主義、経験論と合理論……

時に対立しながら、真理をつかもうとする哲学者たちの姿が記されていた

その壮大な哲学の歴史に、僕は引き込まれていった……

おお…… 

そ、壮大だぜ……!

ところが!すぐに、重大な事実に気がついたんだ……

え!?

重大な事実、ですか?

そう!それはズバリ……   

ズ、ズバリ……!?

西洋の古典には「完成がない

完成がない……

約2000年間、アップデートし続けてるんだ

ってことは……答えがないってことっすよね?

そう!山下くん、鋭いね

それに気がついた僕は、日本の古典に向き直った……

なぜなら、日本の古典には土台があるからだ。完成されている

それが、「ある思想」なんだ

あ!もしかして……

仏教思想……ですか?

そういうこと。日本の古典には、仏教という強固な土台がある

日本の土台 仏教
日本の土台 仏教

それがわかって、仏教に注目して読んでいったんだ

ははぁ〜。全部つながるんすねぇ

どうして鈴木さんが、仏教に詳しいのか……

やっと、ナゾが解けた

話すと長くなるからねぇ(笑)

そして!仏教に注目して、日本の古典を読んでいくうち……ついに!

『歎異抄』と出会ったんだ!

キタ!『歎異抄』!

僕は、惹かれたんだね、歎異抄の「1つの言葉」に……

!?

(つづく)

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