8話「つきまとう、得体のしれないむなしさ」

8話「つきまとう、得体のしれないむなしさ」

< 7話「ついに明かされる!鈴木さんのナゾ」

鈴木さんが…

か、会長!?

隠そうと思ってたわけじゃないんだけどね

鈴木会長っ!

ん?

お飲み物おつぎしましょうか!?お料理取り分けましょうか!?

わかりやすいなー、コイツ

こうなると思ったから、言いたくなかったんだけども(笑)

山下がすみません……

君たちとは、純粋に古典トークをしたかったからね

でもそんな人が、なんで僕らなんかと……

いまはほとんど社長に任せてるんだ。名前だけの会長だね

すごい……

おかげで自由気ままに、古典の勉強を出来てるんだ

……

鈴木さん。あの、今更なんすけど……

なんで「古典」なんですか?

それは……たしかに

……そうだね

それじゃ、少し昔話をしようか

続・ケモノガタリ ヨアケ
続・ケモノガタリ ヨアケ

鈴木さんが心打たれたものとは?

僕は小さい頃、あるものが怖くてね……

え、ピーマンとかです?

それは山下だろ

お前……ピーマンくらい食べろよ

俺は肉食系男子だからいーんだよ!

ピーマンならよかったんだけどね。夜寝れなくなるくらい怖かったんだよ

じゃあ、ヒント。この前も話したね

うーん、何だろう……

………もしかして

」ですか?

あれは、小学2年生の時。大好きだった祖母が亡くなってね。よくわからないまま、葬式に出たんだけど……

数年たって、ようやく死んでしまったことがわかった

まだ子どもですもんね……

このときに「どうして人は死んじゃうんだろう」って不思議になった。

たしかに、僕もじいちゃんが倒れたとき、ちょっと考えてしまったなぁ……

この前は、田中がきっかけで話し始めたもんな

1話 2:30~

そういえば、そうだったね。僕はその後、すごくゾッとしたんだ。

「僕もいつか死ぬんだ。死んだらどうなるんだろう……」って

それこそ、お釈迦さまのいう「死苦」だね

ああ……

それ子どもで耐えられるんすか?

お釈迦様ならまだしも、僕は凡人だったからねぇ

だけど、そんな不安を忘れさせてくれたのが、

ブルーハーツだったんだ

ブルーハーツ!?

初めて出会った時、衝撃だったね。「ドブネズミみたいに美しくなりたい」

あ、知ってる!

そして、力強いメロディライン!シビれたね!

のめりこんじゃってね。ライブあらば、どんな辺境の地でも行ったよね

わかる!!!

落ち着け田中

ブルーハーツにどっぷりハマってる時は、何もかも忘れることができたよ。それこそ死の不安も、ね

いいじゃないすか〜

でもね、追いかけてるうちに、いてもたってもいられなくなった

ん?  
まさか?

そう、大学でバンドをはじめたんだ

バンドしか見えてなかった大学時代

ウチの大学の軽音ですか!?

そうそう。  
すぐにバンドを組んで、毎日ドラムを叩いてたよ

そうそう。  
バンドのリーダーもやって、部長もやった。夢中すぎたね

すげー。  
そういや田中もアニメに触発されて、軽音サークル入ろうとしてたよな?
3日でやめたけど

そりゃアイドルたちの後ろで「自分も演奏したい!」って思うじゃん!

お前くらいだよ

へえ、田中くんの演奏も聴きたかったけどなぁ。
まぁ、ホント当時は熱中してたよ

そんな中で、大きめのライブがあったんだ。
大学生バンドだったら当時一番大きなハコだった

すご!

半年以上前からみんなで練習した。それこそ、空き時間は全部使うくらいに

朝練はもちろん、授業の合間も練習したし、
大学が閉まってからはスタジオ借りて夜遅くまで

熱の入り具合がすごい

鈴木さん、めちゃくちゃ本気だったんすね

うん。  
当時の僕はバンドしか見えてなかったし、本気だった

ライブ会場に入って、自分たちの名前が呼ばれたときの武者震い……今でも覚えてるよ

そして、これまでの練習の成果をぶつける爽快感! 観客との一体感! ここが世界で1番熱狂してるんじゃないかってほどの盛り上がり!

ライブは大成功だった。テンションの上がった僕たちは、朝まで打ち上げをした

朝までっすか!  
ライブ成功してからの飲み会、最高っすね〜

………

あれ?  
でも、鈴木さん嬉しそうじゃないですね

……そうなんだよね

なにか理由が?

……もちろん、楽しかった。  
終わってから飲んで騒いで……

それで朝方、解散していくわけじゃない?

そして一人になった、その時に……

スッと冷めたんだ。

え……?

むなしくなったんだ。  
この先に、いったい何があるのか……ってね

「熱中」の先に待っていたもの

この先に何があるか……っすか?

そう。  
バンドへの想いは本気だった

でもね。  
熱中して練習するほど、わかってしまったんだよ

あの高みに、自分は届かないんだろうな」って

音楽の世界で活躍できるのは、ほんのひと握りの人だけ。そこに自分は入れるのかってね

でも、やらないと分から……

本気でやったから分かったんだ

勝てない戦に挑む時ほど……絶望を感じることはない

勝てない戦……

これが僕が感じた、むなしさだったんだ

わかる……

い、いやでも!  
それって、現代人だから感じるんじゃないっすか?

現代人は多いだろうね。だけど、過去の人も感じてたんだ

明治時代の文豪・芥川龍之介もね

え、芥川が?

そう。  
『或る旧友へ送る手記』の中でね

まさに、僕はこんな気持ちだったよ

え、まさか……自分の本の売上が伸び悩んでたとか?

それはハッキリした不安だろ

そうだね。  
そういう不安なら、努力すれば解決できる

芥川も、「病苦や生活難が不安なわけじゃない」と言ってる

それじゃ  
ぼんやりした不安って……何のことですか?

これは「自分の人生に対しての不安」だ

僕らの人生に必ずある将来……つまり、「死」と言えるんじゃないかな

それこそ芥川も「この不安によって自殺を考えて」いたらしい。この手記は、事実上の遺書とも言われてる

……

1300年以上前、飛鳥時代の歌人、柿本人麻呂も、人生の最期に待ち受ける「死」について詠んでるよ

「まきむくの やまべとよみて ゆくみずの みなわのごとし よのひとわれは」

巻向の山辺を、音を立てて流れ行く川。その川に浮かぶ水泡のようなものだ。この世を生きる私は……

この歌、万葉集ですよね。大学の授業で扱ったことあります

さすが文学部……!

死は不安だけど、直視できない。だからみんな忙しくするし、なにかに没頭する

あのホリエモンも「死が不安だった」って言ってるね

え!?  
ホリエモンも!?

そう。  
彼は、死を通して自分の人生を見つめてる

死への恐怖から、仕事に打ち込んでるのか……

あのホリエモンが……

むなしさや不安を感じるからこそ、何かに打ち込まずにいれない。音楽に熱中した僕みたいにね

でも、僕は音楽で、むなしさを拭い切ることはできなかった

今考えれば、むなしさが常についてまわってた。僕の人生には

全然、そんな風に見えませんでした……

たしかに。仕事もデキて、会社の会長なら……

僕も昔は、能力が高ければ、起業できれば、このむなしさはなくなるんじゃないか……って思ってたよ

だから、その後の僕は「人として成長したら」、何か変わるんじゃないかと思って……

単身、異国の地へと飛び立った!

い、異国の地!?

つづく

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